森鴎外の百物語を読んだら言葉が難しすぎたので意味を調べた
森見登美彦の新釈 走れメロス 他四篇という小説が積読になっていたので、ようやく読みました。 この小説は、以下の5篇の小説を、舞台設定を現代(の大学生活)にして書き直した、みたいなものです。
で、山月記、走れメロス、桜の森の満開の下は読んだことはあるものの、藪の中と百物語は読んでないので、読んでみたのですが、百物語は日本語が難しすぎて進みが悪かったです。 藪の中も読みましたが、そっちのがだいぶマシです。
なお、百物語は下記から読めます(それ以外も青空文庫で読めますし、Kindleで無料であります)。
というわけで、以下、わからなくて調べたもの(以外も、あまり使わなさそうな単語)を、下記に列挙と説明します。内容は保証しません。
アクセンチュエエ
IT関係の人だと、アクセンチュアに思うところがあって叫んでいる言葉かなと思いかもしれませんが(思いません)、違いますね。
森鴎外の留学先はドイツですが、ドイツ語っぽい発音でもなさそうなんですが、フランス語の「accentué」が近そうです。英語だと、「accented」。
「或る廉々がアクセンチュエエされて、霞んだ、濁った、しかも強い色に彩られて、古びた想像の島ってある、僕の脳髄の物置の隅に転がっている」のように書かれています。
ところどころ強調されて、みたいな感じで良いのではないでしょうか。
ファキイルと云う奴がアルラア・アルラアを唱えて
こんなものは、通常調べないで、誰かが、何かを唱えてる、ふーん。くらいで良いんですけども、一応調べました。
下記のサイトに、「『ファキイル』はイスラーム・スーフィズムに由来する言葉で、ほんらい托鉢僧・乞食僧」とありました。
更に調べたところ、Wikipediaにて、「托鉢行や乞食行を実践する修行者を「貧者」(ファキール فقير faqīr)と呼び、ダルヴィーシュの同義語として用いられた」とあります。
イスラム教ですので「アルラア・アルラア」とは、「アッラー・アッラー」ということでしょう。
蔀(しとみ)
これは、人名として使われていますが、「蔀」とは何なのか。これは、下記のとおり。格子状の建具のことのようです。
下記には、「現茨城県である常陸の有名氏族」とありますね。この蔀という方も茨城の方かもしれません。
両国を跡に見て、川上へ上って、寺島で
「東向島は、昭和39年から40年まで(1964年から1965年まで)の町名改正以前には寺島と呼ばれていました」とありますので、「寺島」は「東向島」のようです。
柳橋の船宿
「かつて東京都台東区柳橋に存在した花街」とのことですが、「台東区柳橋1丁目」は両国のすぐ近くですね。両国の近くから船に乗って隅田川を北上し東向島まで行くということですね。
飾磨屋(しかまや)
「飾磨」は姫路市の南部の地名とのことです。「褐 (かち) 染めの産地」とのことなので、染物屋でしょうか。
新釈では、「鹿島」という人物なので、音を似せたんでしょうね。
紺絣(こんがすり)の銘撰(めいせん)の着流しに、薄羽織
紺絣は、紺色の地に白い絣文様があるものですが、絣というのは、染色済みの糸を使って織る技法ということです。 詳しくは、下記。
銘撰は「銘仙」のことで、「平織した絣の絹織物」でした(Wikipedia)。
「当初は平仮名の「めいせん」であったが、1897年(明治30年)、東京三越での販売にあたって「各産地で銘々責任をもって撰定した品」ということで「銘撰」の字を当て、その後、「銘々凡俗を超越したもの」との意味で「仙」の字が当てられて「銘仙」となったという」(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%8A%98%E4%BB%99)
薄羽織は、以下で熱く語っておられる方がいました。
https://www.hana-wakou.co.jp/komonohana/blog/summer_outer_10173/
書見
書物を読むこと。まんまですね。
色若衆
「色を売る若衆」ということらしい。
見台
「現在では、書物をおくものを書見台、邦楽で使用するものを見台と呼び分けている場合が多い。また仏具の一種」(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A6%8B%E5%8F%B0) とありますが、この時代ではたんに本を置く台でしょう。
薄茶
普通にそのへんで出ているお抹茶は、たいてい薄茶なので、それを想像すればよいです。 うっすいお茶ではないです。
イブセンの所謂幽霊
イプセンはノルウェーの劇作家です。「いわゆる」というのが気になりますが、下記ですかね。
幽霊 (岩波文庫 赤 750-4) | イプセン, 原 千代海 |本 | 通販 | Amazon
下記に詳細に書かれている方がいました。
文脈的には、どうなんですかね。
「百物語と云うものに呼ばれては来たものの、その百物語は過ぎ去った世の遺物である。遺物だと云っても、物はもう亡くなって、只空き名が残っているに過ぎない。客観的には元から幽霊は幽霊であったのだが、昔それに無い内容を嘘き入れて、有りそうにした主観までが、今は消え失せてしまっている。怪談だの百物語だのと云うものの全体が、イブセンの所謂いわゆる幽霊になってしまっている。それだから人を引き附ける力がない。客がてんでに勝手な事を考えるのを妨げる力がない。」
なんか、違う気がする。
下記の目次に「連載 鴎外 その紋様(27)「イブセンの所謂幽霊」について / 竹盛天雄/p146~150」とあるので、国立国会図書館にいけば謎が解けるかもしれません(僕は行かないけど)。
お酌
「お酌の甲走った声」とか「お酌を揶揄らしく」とあるので、人ですが、お酌をする女性を「お酌」と言っていたようですね。
根附(ねつけ)の牙彫(げぼり)
根付ですね。牙彫は、象牙の彫り物でしょう。
薄縁(うすべり)
畳表だけのもの。いわゆる、ゴザですね。
結城紬(ゆうきつむぎ)の単物(ひとえもの)に縞絽(しまろ)の羽織
「結城紬(ゆうきつむぎ)とは、茨城県・栃木県を主な生産の場とする絹織物」(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B5%90%E5%9F%8E%E7%B4%AC) 単物 は、裏のついていない和服の総称です。
「縞絽」は縞模様の絽ですが、「絽」とは、夏物の生地で、フォーマルな感じらしいです。
鶴亀鶴亀
真面目に調べたことなかったのですが、「縁起直しにいう語。ふつう『つるかめつるかめ』の形で用いる」ですね。 景気の悪いことを言った後に、縁起の良い鶴と亀を胃うことで、帳消しにしたいんでしょう。
船の艫(とも)
船の後ろの方(船尾)ですね。
織地のままの繭紬(けんちゅう)の影紋附
繭紬は「 柞蚕(さくさん)の糸で織った一種の紬(つむぎ)」(https://kotobank.jp/word/%E7%B5%B9%E7%B4%AC%E3%83%BB%E7%B9%AD%E7%B4%AC-258770) とのことです。 柞蚕(さくさん)というのは、蚕の種類のようで、紬は絹織物のことですね。
陰紋というのは、刺繍で輪郭だけを象ったもの(https://kotobank.jp/word/%E9%99%B0%E7%B4%8B-461269)とのことです。
織地のままというのは、染めてないということですかね。淡褐色の絹織物に、陰紋の刺繍が誂えてあるといった具合でしょうか。
木母寺
現存する天台宗のお寺。
ホーム - 木母寺 公式ホームページ (天台宗 梅柳山 隅田川厄除大師)
隅田川の近くにあるようですね。
冠木門(かぶきもん)
「冠木を渡した、屋根のない門」
「冠木」は「門や鳥居などで、左右の柱の上部を貫く横木」とのことです。
画像検索するのが速いですね。
かなめ垣
「アカメモチを植えた生け垣」とのことです。
アカメモチは、カナメモチと同じ。「若葉は紅色」ということで、そういや近所の生け垣もこれだわ、と思いました。
一顰一笑(いっぴんいっしょう)
ちょっと顔をしかめたりちょっと笑ったりすること。表情をわずかに変えることですね。
アヴァン・グウ
フランス語の「avant-goût」でしょうか。「味」とか「予兆」とかのようですが…。
「その頃まで寄席よせに出る怪談師が、明りを消してから、客の間を持ち廻って見せることになっていた、出来合の幽霊である。百物語のアヴァン・グウはこんな物かと、稍馬鹿にせられたような気がして、僕は引き返した」とあるのですが、予兆じゃ変だし、ここでは味付け(演出)みたいな意味合いでしょうかね。
紗の道行触(みちゆきぶり)を着た中爺いさん
「紗」は、「縞絽」のところのリンクに説明がありますが、夏物の生地ですね。 「道行」は和装の外套ですね。「道行」のことを「道行触」ともいうようです。 「中爺いさん」は、なんですかね。中年製と爺との間なんでしょうか。
田の畔(くろ)
「田と田の間に土を高く持ったところ」(https://kotobank.jp/word/%E7%94%B0%E3%81%AE%E7%95%94-2058077)
根調(こんちょう)
「ある考えや作品などの奥に流れていて、そのもとになっている傾向。基調」(https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E6%A0%B9%E8%AA%BF/#:~:text=%E3%81%93%E3%82%93%E2%80%90%E3%81%A1%E3%82%87%E3%81%86%E3%80%94%E2%80%90%E3%83%86%E3%82%A6%E3%80%95,%E5%9F%BA%E8%AA%BF%E3%80%82)
銀杏返し
女性の髪型です。時代劇でよく見そうなやつですが、違いがあったとしても、違いがわかりません。
六分珠の金釵(きんかん)
六分珠は1.8cmの玉ですね。それがついている、金製のかんざしです。
今紀文
文脈的には、今時分とかいうことだろうか...。不明。
ではなくて、「今」の「紀文」(紀伊國屋文左衛門(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B4%80%E4%BC%8A%E5%9C%8B%E5%B1%8B%E6%96%87%E5%B7%A6%E8%A1%9B%E9%96%80))ですね。 紀伊國屋文左衛門は、江戸時代の大符号で、「紀文」と呼ばれていた。
現在の「紀文」のような大富豪とかやり手、のことを「今紀文」と呼ぶのでしょう。
「今紀文だと評判せられて、あらゆる豪遊をすることが、新聞の三面に出るようになってからもうだいぶ久しくなる。きょうの百物語の催しなんぞでからが、いかにも思い切って奇抜な、時代の風尚にも、社会の状態にも頓着しない、大胆な所作しょさだと云わなくてはなるまい」
ゴリキイのフォマ・ゴルジエフ
ゴーリキイのフォマ・ゴルデーエフですね。
"Foma is just a sprightly man looking for freedom but feeling thwarted by life's conventions,"(https://en.wikipedia.org/wiki/Foma_Gordeyev)とのことなです。 「フォーマはただの実直な男で、自由を求めているが、世間のしきたりに邪魔されていると感じている」と云うような人物のようです。
血糸
ぐぐると厨二っぽいのしか出てこないですが、「あの血糸の通っている、マリショオな、デモニックなようにも見れば見られる目」と、目にかかるので、「充血している」とか「血走っている」くらいの意味合いで良いのではないかと思います。
マリショオな、デモニックなようにも
文脈的には、形容詞で、demonic(悪魔的) と並んでいるので、malicious(悪意のある) ではなかろうか。 フランス語では、「malicieux(男性)」、Googleに発音させると、「マリシュ」といった感じに聞こえます。ただ、フランス語の「démoniaque」は、「デモニャッキ」みたいに聞こえるので、これは、英語かなぁ、と思います。
飾磨屋の馴染は太郎
「太郎」とありますが男ではないです。下記によると、芸者が男のような名前をつけているのは、「江戸時代の法の網くぐりの名残」とのことです。
黒羽二重の紋付
黒い着物に紋付きだけがついている地味な着物。でいいんじゃないだろうか。
湯灌(ゆかん)の盥(たらい)
「湯灌は、人がなくなったときに、ぬるま湯を使って体や髪を拭き清める」なので、それを行うために湯を入れておくためのタライですね。
閼伽桶(あかおけ)
「浄水を井泉から汲んでくるために用いられる小型の手桶」「浄水は煩悩(ぼんのう)を洗い雪(そそ)ぎ、諸尊を供養(くよう)するために献じられるもので、香や華、燈火とともに重視された」
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/148964
お墓参りのときに、墓にかける水を汲むための桶で、馴染みのあるものですね。
稟賦(ひんぷ)
「天から与えられた、生まれつきの性質。天性」とのことです。
アネクドオト
ロシア語では、滑稽な小話全般。日本では「旧ソ連で発達した政治風刺の小話」として用いられることが多いとあるが、森鴎外の時代からそうだったのかはわからないですが、舞踏に関する話についてなので、政治は関係ないかなと。英語の「anecdote」であれば、「逸話」。急にロシア語が出るのもへんだから、逸話のほうかな。
スタチスト
ドイツ語の、「端役。エキストラ、重要でない人物」。(https://kotobank.jp/dejaword/Statist) 文脈的に、端役、もしくは傍観者的なものだろうというのはわかったんですが、ドイツ語にたどり着くのに時間がかかった...。
オルガニック
オーガニックでしょうが、「オルガニックな欠陥」て、なんですかね。添加物のないという意味で行くと「天然の」とか「もともとの」という感じですかね。
おわり
ググればだいたいわかる時代なんですが、ググってもまぁまぁ厳しいものはありますね。独特のカタカナは意味わからないですね。 百物語を読む人の助けになれば幸いです。内容は保証しませんけども。
まぁ、でも、ちゃんと調べると、情景が目に浮かびやすいというか、割と想像の助けにはなって良かったんではないかと思います。 百物語自体話としては大した話ではないとは思いますけどね。